ICT支援員への道

近年、学校教育においてICT利活用を推進する動きが広がっています。

その最たるものがGIGAスクール構想です。


GIGAスクール構想とは、義務教育を受ける児童・生徒に対して1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、ICTを活用した創造性や思考力を育成する教育を行い、個別最適化された学びを提供しようとする、教育改革案のことです。

新型コロナウイルスの流行もあり、当初の計画よりもスケジュールを前倒しして整備が進められ、令和3年7月末時点で全自治体における96.2%の自治体で端末が整備されている状態です。


現状、整備された機器の設置準備や障害発生時の対応、機器を活用した授業の構想・改善は多くの場合教員が行っていますが、昨今はほとんどの教員が残業時間月45時間を超えている事が問題となるなど教員の負担が増しており、教員として勤務しながらICTを活用した教育活動に対する理解を深めていくことは難しい状況であると言えます。


そこで、学校内で教員に代わり、学校ICTの専門家として配置が進められているのがICT支援員です。

1. ICT支援員に求められる力


ICT支援員は、当然学校内のICT機器やネットワーク環境に精通している必要があります。

学校内で勤務すると言っても授業を受け持つわけではありません。

授業中に児童生徒や教員が問題なく機器を使用できるよう整備・点検を行ったり、トラブル発生時は授業に支障が出ないようできるだけ早く機器を正常な状態に戻したりする必要があります。

そのためには学校ごとに異なる機械の状態やネットワーク環境への正しい知識と理解、障害発生時に原因箇所を的確に突き止める力、そして迅速に復旧させる能力が必要不可欠です。


また、学校教育に対する理解も欠かせません。

決められた予算やカリキュラムの中で運営されているため、いくら学校ICTの専門家だとしても必ずICT支援員の提言が採用されるわけではありません。

予算の関係で、本来であれば必要な機器を用意したり環境を整えたりする事ができない可能性もあります。

さらに、教員によってICT機器に対する理解度・習熟度も異なります。

どんな場面においても、教員や児童生徒にとってより良いICT教育環境を整えることが大切です。

2. 配置にあたって


ICT支援員を配置するにあたっては、学校側に以下のような取り組みが求められています。

2-1. ①業務の明確化

学校におけるICT関連業務の洗い出しとICT支援員の業務を整理し、ICT支援員が行う業務を明確化します。

ICT支援員にどのような業務を求めるかは、自治体や学校毎に異なります。

2-2. ②スキル標準の策定

ICT支援員にどの程度のスキルを求めるかを事前に設定しておきます。

授業支援や環境整備だけでなく、校内研修等、教員に対する教育を求める場合もあります。

2-3. ③研修項目と研修プログラムの提示

求められている業務、スキルに対応した研修項目を提示します。

適宜必要な研修を行うことで、質の高い支援を行うことができます。

3. 役立つ資格


ICT支援員として勤務する場合、自分自身に適切な能力があることを示す方法の一つとして資格の取得があります。

以下がその一部です。

3-1. ①ICT支援員能力認定試験

年2回、前期(6月頃)と後期(11月頃)に実施されている試験です。

ICTの扱いに関する実践的な知識、教育現場でのコミュニケーション力をはかるため、実践知識を問うA領域と問題分析力・説明力を問うB領域の2つで構成されています。


また、どちらの領域も高得点で合格し、実務経験が2年以上ある場合はICT支援員上級認定試験の受験資格を得ることができます。

3-2. ②教育情報化コーディネータ検定試験

学校や高等教育機関など教育の情報化をコーディネートできる人材を認定する試験です。

原則20歳以上であれば誰でも受験できる3級は年1回(6月頃)実施されており、合格後は2級、1級の取得を目指すこともできます。


より実務的なICT支援員に比べて、教育情報化コーディネータは情報化推進計画の設計・提案や、教育カリキュラムの開発・運用等、ICTに対する理解だけではなく教育の情報化・学校運営に関する知識や運用する力が求められています。

3-3. ③ITパスポート

ITに関する基礎的な知識があることを証明する資格として知られている資格です。

教育に関連する資格とは異なりますが、セキュリティやネットワーク等ICT機器を扱うにあたって最低限必要な知識を身に付けることができます。

3-4. ④Google認定教育者

Googleが認定する教員向けの資格です。

Google for Educationの基礎知識や授業での実践・活用ができるスキルを証明する事ができます。

レベル1の取得後は、より組織的な視点からの理解が求められるレベル2、他の教師に教え、サポートする力を求められる認定トレーナー資格を目指すことができます。


Google for Education

Google社の教育プログラムの総称。
Chromebook、Google Workspace for Education、Google classroom等。

3-5. ⑤Apple Teacher

Appleが認定する教員向けの資格です。

MacやiPad等Apple製品を用いて教育を行う能力があることを証明することができます。

勤務する学校で導入されている機器がApple製品である場合に活かせる資格です。

3-6. ⑥MOS(マイク ロソフト オフィス スペシャリスト)

Word、Excel、PowerPoint等Microsoft製品の利用スキルを証明する事ができる資格です。

授業内での活用はもちろん、配布物や教材の作成等にも生かすことができます。


ITパスポート、MOS等は教育業界に携わった経験がなくとも取得している人が多いと思います。

しかし、ICT支援員はITに関する知識・技術だけでなく、学校教育に対する知識・理解も不可欠です。

現場で働くにあたっては、ICT支援員認定試験、また勤務する学校で導入されている機器に合わせてGoogle、またはAppleが提供している何れかの資格を取得している方が望ましいと考えます。

4. まとめ

ここまで学校教育における教育の情報化の現状やICT支援員に求められている力を紹介してきました。

円滑に事業を進めるためには、学校側、そしてICT支援員側双方の相互理解が最も大切です。


ICT支援員はあくまで外部の人間として学校教育に携わることになります。

互いの業務に対する理解や配慮、リスペクトがなければ「なぜこの程度のことができないのか」、「この程度の知識もないのか」といったすれ違いが発生してしまいます。

学校側は教育のプロとして、ICT支援員側はICTのプロとして、互いに知恵を出し合い、学校教育をより良くするための努力をすることが必要です。


ICT教育が充実すれば、児童生徒の理解度に合わせ、適切な教育を行うことができます。

また、不登校児・入院児など事情があって同じ教室で学ぶことができない子供たちとも共に学ぶことができる可能性が広がります。

文部科学省が目標としている「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境」の実現には、ICT支援員の存在が必要不可欠と言えます。

参考資料

1.(リーフレット)GIGAスクール構想の実現へ/文部科学省
2.端末利活用状況等の実態調査(令和3年7月末時点)(確定値)/文部科学省初等中等教育局
3.ICT支援員の配置を/文部科学省