デジタル化が進む現代社会では、個人情報や企業の重要な情報を保護するセキュリティエンジニアの役割が急速に重要視されています。
特に日本においては、2020年の「JIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)」の報告によれば、セキュリティ監査を実施している企業は8割を超え、国内のセキュリティ意識の高さが垣間見えます。
この背景には、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展やテレワークの普及などにより、サイバー攻撃の標的となりやすい状況が増え、それに対応するためのセキュリティ対策の強化が求められているためです。
しかし、セキュリティエンジニアは他のIT職種と比べて高度な専門知識が求められる職種であり、そのための教育・育成体制もまだ十分に整っていないというのが現状です。
セキュリティエンジニアとしてキャリアを進める際は、このような市場の状況を理解し、自身のスキルを高め、資格を取得することで市場価値を高め、多くのチャンスをつかむことが可能になるでしょう。
本記事では、セキュリティエンジニアとは何か、キャリアアップするには、どのようなスキルや資格が必要なのか、そして現在の業界の状況と平均年収についても解説します。
セキュリティエンジニアに必要なスキル | 2年目からのロードマップ
1. セキュリティエンジニアとは?
セキュリティエンジニアとは、組織の情報システムが外部からの脅威に対してしっかりと防御され、保護されていることを確保する役割を担う専門家です。
彼らの主な仕事は、情報システムの安全性を確保することで、ネットワークのセキュリティ対策、ウイルス対策、不正アクセス対策などが含まれます。
また、万が一セキュリティ上の問題が発生した場合には、その原因を究明し、解決策を提案したり、常に最新のセキュリティリスクを認識し、それに対する対策を練ることも重要な役割です。
これらの業務を通じて、セキュリティエンジニアは組織の情報資産を守り、ビジネスを円滑に進めることを可能にします。
1-1. 仕事内容
以下、セキュリティエンジニアの主な仕事内容を紹介します。
1. セキュリティポリシーの作成と維持
セキュリティポリシーの作成と維持は、企業全体の情報セキュリティの基準を設定し、その遵守を推進する役割です。具体的には、パスワードの設定ルールや情報の取り扱い方、外部からの攻撃に対する防御策などを明文化し、社内の全員がそれを理解し実行できるようにする作業を含みます。
例えば、社員が自身のパソコンを離れる際には必ずロックをかける、などのシンプルなルールから、専門的な知識を必要とするセキュリティ設定まで、企業の情報を保護するための基準となるポリシーを策定します。
2. セキュリティシステムの設計と導入
セキュリティシステムの設計と導入では、企業が必要とするセキュリティレベルに合わせて、最適なシステムを設計し、その導入を担当します。例えば、ファイアウォールを設置して外部からの不正なアクセスを防いだり、侵入検知システムを利用して異常な通信を検知し、速やかに対処するなどの業務を行います。
3. セキュリティ監視と対策
セキュリティ監視と対策では、システムの安全を確保するために定期的な監視を行い、不正アクセスやウイルス感染の可能性がある場合は、直ちにその対策を講じます。具体的には、セキュリティ監視システムからのアラートに対して迅速に反応し、不正アクセスやマルウェアの侵入を防ぐなどの業務を行います。
4. セキュリティ教育
セキュリティ教育では、社員全員がセキュリティに対する意識を持つことで、情報漏洩のリスクを低減します。具体的には、フィッシングメールによる詐欺から身を守る方法や、セキュアなパスワードの設定方法など、日常的に注意すべきポイントを教育します。
これは、セキュリティエンジニアの専門知識を全社員に浸透させ、全員で情報セキュリティを高めるための重要な役割です。
1-2. 待遇や将来性
2022年の調査では、専門性が求められるセキュリティエンジニアの平均年収は約600万円となっており、アプリケーションエンジニアの平均年収約500万と比べてやや高い傾向があります。
また、今後のセキュリティエンジニアの将来性については、デジタル化が進む現代社会において、情報セキュリティへの需要はますます高まると予想されます。
過去に日本で起きた大きなセキュリティ事故としては、2014年の「Benesse個人情報流出事件」で発生した、3,500万件の個人情報の不正持ち出しや、2018年の「コインチェック仮想通貨流出事件」のサイバー攻撃による580億円相当のNEM流出が有名です。
この事件からも分かるように、企業のデータ漏洩事件やサイバー攻撃は、企業の評価だけでなく、業継続にも大きな影響を与え、情報システムを保護するセキュリティエンジニアの需要は、これからも増えていくと言えるでしょう。
2. 必要な知識・スキル
セキュリティエンジニアには、ネットワークやシステムの知識の他、最新の脅威や対策の知識も求められます。
セキュリティホールの発見、パッチの適用、侵入検知の設定、脅威インテリジェンスの収集と分析、そしてそれらの情報を元にしたセキュリティポリシーの策定と施行など、多岐にわたるスキルが必要となります。
以下に主なものをいくつか挙げます。
これらのスキルや知識は、一日や二日で身につけられるものではありませんが、学び続けることでセキュリティエンジニアとしての専門性を高めていくことができます。
2-1. 情報セキュリティの基礎知識
情報セキュリティの基本的な概念や技術を理解していることは必須となります。
例えば、暗号技術、認証技術、ネットワークセキュリティ、ウェブセキュリティなど、情報システム全般に関連する知識です。
2-2. ネットワークとシステムの知識
ネットワークやシステムの構築・運用の知識も必要です。
具体的には、TCP/IPやHTTPなどのネットワークプロトコルの理解、OSやデータベースの運用知識、クラウド技術の理解などが求められます。
2-3. プログラミングスキル
セキュリティツールを自分で開発したり、既存のシステムのセキュリティホールを調査・解析するためには、プログラミングスキルも必要です。
PythonやC/C++、JavaScriptなど、複数のプログラミング言語を扱うことがあります。
2-4. 論理的思考力と解析力
セキュリティエンジニアは、一見無関係に見える情報からパターンを見つけ出し、問題を解決するための答えを導き出す能力が必要とされます。
例えば、不正アクセスのパターンを見つけるためには、大量のログデータから異常な動きを探し出す解析力が求められます。
2-5. 最新のセキュリティ情報への対応力
セキュリティの世界では、新たな攻撃手法が日々開発され、それに対抗するための新たな防御策が必要であり、セキュリティエンジニアには最新の脅威を迅速に認識し、適切に対応できる能力が求められます。
このためには、情報収集力と学習能力、そしてそれら新たな情報を自分の知識として吸収し、具体的な防御策に活かすための能力が必要となります。
情報収集の手段としては、インターネット上のセキュリティ関連のフォーラムや専門サイト、システムベンダーから配信されるメーリングリスト、オンライン学習リソースを活用することが重要です。
3. 役立つ資格
セキュリティエンジニアにとって役立つ資格は数多くありますが、ここでは特に認知度が高く、専門性を示す資格をいくつか紹介します。
これらの資格は一部に過ぎませんが、セキュリティエンジニアとしてのキャリアを築くために必要な資格です。
3-1. 情報セキュリティスペシャリスト(SC)
情報処理技術者試験の一つで、情報セキュリティに関する高度な知識と技術を有する人材を認定する資格です。
情報システムの安全性を確保するための技術や手法を理解し、それを実務に適用する能力が求められ、情報セキュリティに関する国内資格としては最高峰とされ、その難易度は高いです。
具体的には、暗号技術、ネットワークセキュリティ、ウイルス対策、セキュリティポリシーの策定・運用、システム監査など、幅広い分野にわたる知識が必要とされます。
3-2. CISSP(Certified Information Systems Security Professional)
CISSPは、国際的な認知度と信頼性を誇るセキュリティエンジニアの資格で、全世界での情報セキュリティの専門家であることを証明できます。
CISSPの試験範囲は、セキュリティとリスク管理、資産のセキュリティ、セキュリティエンジニアリング、ネットワークセキュリティと通信、アイデンティティとアクセス管理、セキュリティ評価とテスト、セキュリティ運用、ソフトウェア開発セキュリティの8領域に及びます。
また、CISSPの取得には、直近の5年間に、上記8領域の少なくとも2領域で実務経験を持っていることが必要です。
3-3. CompTIA Security+
主に初級〜中級レベルのセキュリティエンジニア向けの国際資格です。
ネットワークセキュリティ、コンプライアンス、リスク管理、データの保護など、情報セキュリティに必要な基本的な知識を保有していることを証明できます。
4. まとめ
また、デジタル化が進む現代社会でのサイバーセキュリティの重要性は、これからも増していくことでしょう。
新たな脅威に立ち向かうためには、常に学び続け、知識を更新し、スキルを磨くことが求められますが、その一助となるよう、この記事が参考になれば幸いです。